口語訳 現代語訳 神道五部書 豊受太神御鎮座本紀 その十四 神楽の起源

神樂の起源であるが、昔素戔嗚神(すさのをのかみ)が日の神に對して甚だしい無禮の數々を行ひ、天照大神がお怒りになり、天岩窟(あまのいはと)に入られて、磐戶(いはと)をとぢられて、隠れられた。そして國中が晝(ひる)と夜の別も無くなつてしまひ、神々は憂へ惑はれ、手足の置き所󠄃もなくなり、何をするにも火を灯さなければならない状態に陥つた。天御中主神(止由氣皇太神のことである。)の御子の高皇產靈(たかみむすひ)神が命令されて、八十萬神(やそよろづのかみ)は天八湍河原(あめのやすのかはらに)(天の川のことである。)に集まつて對策を考へられた。

 

天岩窟の前に庭火をあげて、歌舞し、猿女君の祖󠄃神天の鈿女(うずめ)命が天香山(あまのかぐやま)の竹をとつて、その竹の節の間に穴をあけて、和気を通はせた。今の世に笛といふ類である。また天香弓(あまのかごゆみ)を縦に並べて、弦をはじいた。今の世に和琴といふ。そのいはれである。木と木を合はせて打つて安樂の音を備へた。和風を移し、八音を顯はし、猿女神は手をひろげ、聲をあげて、或は歌ひ、或は舞つた。淸淨の妙音を顯はし、神樂の曲調を供した。

 

この時、たちまちに神の怒りは解けて、妖氣は晴れて、亂れはをさまり、それ以來、風雨時に隨(したが)ひ、日月も順調に運行した。一陰一陽萬物の始めである。一音一聲は萬の樂の基である。神道󠄃の奧深さ、天地の靈妙である。管弦の要󠄃は、八音につき、それだけで貴いのである。だから、先祖󠄃の活躍により、猿女氏が來目命の子孫の屯倉の男女を率ゐて、神代の事績を今に再現するために、三節祭に奉仕するのである。これは永遠の慣例である。