口語訳 神道五部書 御鎮座次第記 その十一 豊受大神の続き

古い言ひ傳へによると、(天地のはじめに)大海原の中に一つのものが浮かび上がり、この形は葦(あし 今は「よし」といふ。)の芽の形の樣であつた。その中に神が成り出でられた。天御中主神(あめのみなかぬしのかみ)と申す。別名國常立尊(くにのとこたちのみこと)といひ、また大元神(おほもとのかみ)とも申す。

 

故に(その神の成り出でられたところを)豐葦原中國(とよあしはらのなかつくに)といふ。

 

またそれ故にその神の御名を天照止由氣皇太神(あまてらすとゆけのすめおほみかみ)といふのである。

 

大日孁貴天照大神(おほひるめのむちあまてらすおほみかみ)と豫め、世には明かされてゐない大切なお約束をされ、長く高天原と地上とを統治された。

 

解說

この物語は先回と異なり、日本獨自の要素が多い。葦(あし)の芽の樣なものがはじめに成り出でるのは、古事記日本書紀と同じである。葦の芽は、先が銳く尖つてゐて、空をつんざく樣な形をしてゐる。この葦の芽から天御中主神が成り出でられ、その場所が豐葦原中國つまり日本だといふ。また、葦の樣なイネ科の植物が澤山ある所の神であるから豐受大神であるといふ。

 

大殿祭といふ古代の朝廷の祭があつて、天皇の住まふ御殿が安泰(あんたい)で、災ひが無い樣にと御殿の守り神に祈ることがその祭の趣旨である。屋船久久遲命(やふねくくのちのみこと)と屋船豐宇氣姬命(やふねとようけびめのみこと)といふ神が御殿の守り神である。屋船久久遲命は御殿の材木の神で、屋船豐宇氣姬命は屋根や繩などを作るためのイネ科の植物の神である。だから、葦原中國の神は豐受大神といふのである。