口語訳 神道五部書 御鎮座次第記 其の九 荒祭宮

荒祭宮(あらまつりのみや)一座(一柱)天照大日孁貴の荒御魂(あらみたま)である。御神體は鏡である。

 

伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、左目を洗はれて生まれられた神を天照荒魂(あまてらすあらみたま)、別名を瀨織津比咩神(せおりつひめのかみ)と申す。

 

神宮に傳(つた)はる古の文書によると、かつて天鏡尊(あめのかがみのみこと)は月の宮殿にをられた。そこで鑄造された三面の寶鏡のうち、二面は伊弉諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉册尊(いざなみのみこと)とが神々から受け繼がれて持つてをられてゐた。

 

伊弉諾伊弉册神が、)神賀吉詞(かむよごと)を唱へられて、日の神、月の神を産みなさつた時、(兩手に持たれてゐた)眞經津鏡(まふつかがみ)のうち、日の神が産まれられたのは左手の一面からであつた。

 

この事により、その眞經津鏡が荒祭宮の御神體となつたのである。

 

解說

荒御魂(あらみたま)とは、神の動的な力のはたらきであり、反對に靜的なはたらきを和御魂(にぎみたま)といふ。兩者は同一の神より發生するので、根本は同じである。にもかかはらず、この書では兩者は別々に誕生されてをり、天照大神は鏡から、荒御魂は伊弉諾尊の禊(みそぎ)の最中に、左目から生まれられた。(右目からは豐受大神の荒御魂が生まれられた。)

 

ちなみに、伊弉諾尊の禊(みそぎ)は、黃泉(よみ)の國から戾られ、體についた黃泉のけがれを淸めようといふことで行はれた。場所は小戸橘之檍原(をどたちばなのあはぎはら)といふところであつた。九州のどこかであることは間違ひないが、場所は特定されてゐない。

 

瀨織津姫(せおりつひめ)といふ神は、神社で行はれる大祓(おほはらへ)といふ行事でよまれる祝詞(のりと)の中に登場される四柱の神々のうちの一柱である。急流の川瀨にをられて、穢(けが)れを川から海へと押し流す神である。

 

天鏡尊が鑄造された眞經津鏡三面のうち、一面は外宮(豐受大神)の御神體、一面はこの荒祭宮の御神體、もう一面は多賀宮(豐受大神の荒御魂)の御神體である。この荒祭宮の鏡は天鏡尊→天萬尊(あめのよろづのみこと)→沫蕩尊(あはなぎのみこと)→伊弉諾伊弉册→荒祭宮と繼承された(御鎭座次第記抄)。